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SHIBAYAMA
WORKS

電子錬金術的なタペストリー Electronic alchemical tapestry

Big Title

 1992年、CGコンファレンスに出席する為パリを訪れた時の事。雨が降る中、と或る古本屋の前を通りかかり、雨宿りに丁度いい場所だと中に入ってみた。フランス語が通じないと思ったのか、或いは私が暇そうに見えたのだろうか、店の主は私が古本を手にとり、見ているのを気にもとめない様子だった。本棚の上の方に手をのばしてみると、そこにはカビ臭い匂いのする1冊の大型本があった。数ページめくってみると、ただのアウトラインだけで陰影もなく、あわただしい時間の中で制作されたのではないかと思わせるようなエッチングの作品集である。本はかなり痛んでおり、紙は酸化し、染みだらけだった。私は元の所に本を戻し、店のおやじさんに眼鏡越しにちらりと見られたが、挨拶をするでもなく店をあとにした。

 パリの交差点を3つ程過ぎ、地下鉄に乗り、レパブリカ広場に戻ろうとしたのだが、しかし私は途中で地下鉄を降り、再びもときた道を引き返してしまった。あの本を購入する為に古本屋へ戻ったのである。 

 それから7年間、この本は私の所で静かに眠っていた。復元可能なテクノロジーが熟成するのを待つかのように。 

 今回、このタペストリーを蘇らせるのに私は大型のプロッターを使用している。今の時代だからこそ、私は逆に古き物への在り方に気を配りたかった。つまり温故知新である。その結果、限りなく現代と古典が融合し始めた。これがとても面白い。コンピュータで制作するにあたりいくつかの問題点が生じ、作業が滞る事もあったが、日本のファションブランドJUNの4Dboxのテックス1と2がそれらを解決してくれ、フォトショップやその他のソフトのバージョンがこの絵の為に上手く機能し始めるようになった。1998年のコンピュータ黎明期後の日本でも面白いソフトが出来始めた。今は2022年だから24年以上前の事である。

下絵

Produced in 1998

 “ALCHIMIA”は錬金術という意味。中世の人たちは金以外の物質から色々な処方箋にしたがって、金を作り出そうとした。それと同じ様に複数のソフトウェアの組み合わせにより、実現できない空間を演出していきたいという意思を持ち続けてきた。ここでは3Dアプリケーションの中のライティング機能をたくみに使い、アングルをあわせ、実際の写真スタジオで撮影したモデルとバーチャルな空間をマッチさせてレンダリングしている。後でPhotoshop上でテンペラ画のように鉄錆の色を下地に引いている。

Produced in 1998

Produced in 1998

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Produced in 1998

idea10zentai

Produced in 1998

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タペストリーとは織物でこの上写真のように、一枚の大きな絨毯のようであった。

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Produced in 1998

(PL.7)

 

Mil IIIIcc LX ans du déluge

Et XIX, Jasius ay régné

Ains que Jesus le rédempteur feust né

Mil IIIIcc septante huict; lors fus-je

Par Dardanus mon frère exterminé

Qui puis fonda Troye pour son refuge. 

 

大洪水から一四七九年後、

そして贖い主イエスが生まれる

一四七八年前に、

私ヤシウスは統治者であったが、

弟ダルダノスによって殺され、

彼は逃れた先にトロアを建てた。

PL.8)

 

Mil CCC ans soixante et dix en some,

Puis le déluge, et devant que feust l'home

Regéneré par grâce déifique

Mil Ve IIIIxx VII, moy qu'on nome

Belgius roy XIIIe, on voit come

Fonday Beauvais dont vient Gaule-Belgique.

 

大洪水から一三七〇年後、

そして恩寵によってわれらが再生する

一五四七年前に、私ベルギウスは、

一九代目の王であったが、

ボーヴェを建設し、

そこから北方のガリアが開けた。

(PL.9) 

 

Mil Vcc ans XL et IX passez

Du déluge, Pâris le noble roy

Dix-huitiéme fonda en grand arroy

Ville et cité de Paris belle assez,

Devant qu'a Rome eust des gens amassez

Vcc cinquante et VIII ans comme croy.

 

大洪水から一五四九年後、

ローマに人々が集められる

五五八年前に

第十八代の高貴な王パリスは

大勢のお供を連れて、

美しき都市パリを建設した。

(PL.10)

 

Mil VIc ans septante sept avant

Notre salut, Galathès moult sçavant

Ay dominé, mil IIe quatre vingtz

Après le grand déluge, car je vins 

Unzième roy de dame Galathée

Et d'Herculès dont Gaule est redoutée.

 

我々の救済の一六七七年前、

大洪水から一二八〇年後、

ガリアを恐れたヘラクレスと、

ガラティアの子である、

博識を誇った私ガラテは、

この地の最初の王となった。

(PL.12)

 

Après que l'arche aux haux mons reposa;

L'an mil VIIc LXVII,jadis,

Francus d'Hector filz, la fille épousa

Du Roy Rémus mil cent IIIIxx dix

Devant J.H.S.;lors comença le nom

De gens Françoys courtoise nation.

 

箱舟が山の頂に止まってから

一七六七年後、

イエスが復活する一一五〇年前に、

ヘクトルの息子フランクスは、

王レムスの娘と結婚した。

ここにフランスの名は由来する。

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Produced in 1998

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Produced in 1998

EPSON003

1998年のカナダ大使館にての個展。

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Produced in 1998

 キリストの教えに「汝の隣人を愛せよ」ということばがあります。今、この隣人という概念はとても重要な問題をもっていると思います。自分以外の最も近距離にいる同じ身体的機能を持つ隣人に対して、自分がどの様な存在であり、隣人にとって、自分がはたして共存性があるかどうかということ、隣人にとっての隣人すべてはクリアーな連鎖念と同じ意味をもつものだと思う。パウロが書き綴った物語(言葉のタペストリー)は、いまもその連鎖を継続させている。それは多分、人類が宇宙で暮らすようになっても生きつづけると思う。パウロはデジタルの概念を宗教者としてはじめて把握した人だと思います。 

 柴山信広も同意のデジタルの意味を武器にした作家であると思います。柴山信広の作りだす世界(デジタルタペストリー)がクリアーで魅力にあふれているのは、そのためであります。     奥村靫正

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Produced in 2001

「柴山信広個展 THE ALCHEMICAL TAPESTRY ”錬金術で開け放つ、織りなされた物語”(電気的装置のタイムカプセルにより製作と構築したタペストリー)」

 中世のタペストリーをモチーフとした作品群です。

柴山はこのテーマに今年(1998年)の3月より取り組み、カメラからの画像とCGを用いてタペストリーの新復元を行っています。

 15世紀、フランスの地方都市ボーヴェにまつわる 史実はタペストリーとして表わされ、或る教会の司教に捧げられました。当時、このようなタペストリーはフランスに数多く存在したといわれますが、現在は散逸、或いは消失してしまい残っておりません。

 しかしこれらのタペストリーの模写(エッチング)が1冊の作品集として現存しており、柴山はそれらを参考にCG技術を駆使し、現代的な感覚を織りまぜながら表現しました。これは最新技術を用いつつ、古典技法に回帰することへのアプローチを意味し、また、カメラからの映像をコンピュータによる錬金術により、新しい意味をもつものに変換させる行為を示しています。 

                                                                                                                 

 新約聖書に登場する聖ペトロの生涯を描いたタペストリーと、フランスの土地に由来する人物をテーマとしたタペストリーを新復元した作品を発表致しますが、登場するモチーフを新たに構成したCGの作品に展開したものです。

 昔はタペストリーは色々な意味合いをもって織りなされるものです。例えば、その時代をテーマに王の権力を示したり、世俗の歴史を描いたものなどがある。しかし、ここで紹介する新復元したタペストリーは、新たにオリジナルな聖ペトロの生涯を述べたものにした。

 ここで紹介する作品は、タイムマシンで大昔のアートを連れて戻ってきたような気分にさせてくれます。これは元々タピスリーとしてフランス北部の聖堂に15世紀から18世紀まで実際に飾られていました。そのタピスリーは1460年頃、司教によって聖堂に寄贈されたのですが、時を経て散逸或いは消失してしまい、今では現存していないのです。しかし19世紀にはまだその一部が残っていたようで、模写による作品集がフランスでマンガのようなエッチングの線画として出版されていました。

 その本に付された解説によると1443年にフランス・イギリス間で結ばれた休戦条約を自身の司教就任への祝福と考え、聖堂に寄贈する記念物の製作を思いついたとあります。その記念物がこれらのタペスリーの大もとであり、それらには彼が休戦に対して望んだ言葉「Paix(平和)」と彼の紋章が散りばめられています。キリストの12使徒の1人であった聖パウロの生涯を主題としており、先に述べた作品集には当時残っていた6点が模写されていました。 

 それをCGで今のデジタル機材やエッセンスや風景を取り入れながら現代に全く新しい造形と解釈で甦らせてみました。 よく見るとパソコンや車も描かれていたり、美味しそうなシェフの料理も差し出されています。また、人物の大方の顔は私自身の顔をモーフィングという技術でこしらえてみました。ですから王様や家来そして聖パウロは私にそっくりな分身です。そんな遊びも試みました。

 新復元とは、すでに完全に無くなてしまった作品を今現代に新たに生まれ変わらせる事を意味した全くの柴山の造語である。この作品は新しいデジタルな世界を構築したものである。

タペストリー

Produced in 1998

Produced in 1998

Produced in 1998

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