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SEIKO-1_edited_

SHIBAYAMA
WORKS

SEIKO ALBA 腕時計 広告

3DのModelingについて

 世界一周から帰ってきた僕は、インドで得たインスピレーションをもとに、写真やイラストとは違う、新しい表現を探してコンピュータMacintoshⅡとMacintoshⅡfxを仕事場にもちこんだ。1990年の事だった。ちょうど 3DソフトShadeを買って間もなかった頃(当時はソフトだけで175万もした。なんと8メガで256色の13inchのモニター付きでのMacintoshⅡfxは125万円!となって部屋の経費と合わせるといくらになるのか)。

 1992年にSEIKO ブランドの一部「ALBA」の腕時計の広告全体の競合プレを頼まれた。4社競合からとった 代理店には、年間分の雑誌の扱いほとんど全てと、「少年ジャンプ」の表4の扱い全てが許可されるので、代理店の真剣さがよく伝わってきた。

 その中で、何案かカンプボードを制作したが一案コンピューターグラフィック案を入れた。その時のALBAのアイテムはシンプルな文字盤の時計で、一度プーマのサッカーシューズの広告CGをつくったことがあったので、できそうだと思っていた。ALBAも若者マーケットの商品なので今までの、写真でもないイラストでもない何か新しい表現が必要だと予測した。プレゼンはこのCG案で通った! 

 複雑なモデリングを持つこの広告が出来上がったら小さな机のMACで造った本格的なマスメディア広告として日本で一番最初だろう。

 喜んでいたのも束の間の出来事で、僕はひとり青くなったのだ。なぜなら、時計のモデ ルは変更になり、より高密度なクロノグラフがついたモデルになったからだ。僕はすぐに、 その複雑かつカーブをもった時計のデザインと、数字とラインが正確にたくさん入っている 文字盤の制作にとりかかった。その当時の僕のマックはⅡfx(当時の最新モデルしかしクロ ック周波数は現在のMACと比べなんと3輪車といわれている!)に40MBのハードディスクと 8MBのメモリ(たった!・・・)、そして13インチのモニタだけだった。

 早速、装備を見直さ なければならなかった。(まだ、当時はQuadra900もなかったのだ)。 まず、Photoshop(バージョンは1.0)のバーチャルメモリを上げるために、もう今はな いブランド、三井石化のIGBのハードディスクを購入した(80万円位した)。あと、13イ ンチモニタひとつではモデリングが辛いので、もう一つ13インチモニタとフルカラーボード を購入しⅡfxに追加した。さらにヤーク社のリスク演算ボードを一枚購入した。これも当時 127万円もした。とにかくお金がかかる時代だった。それでモデリングを始めることにし、 設計図を頂いてそれを立体に起こしていった。

ALBAの3Dモデリング
時計SEIKOの  ALBAの3Dモデリング

Produced in 1992

ALBAの3Dモデリング

益々見えない。

 Shadeを使う事にしていた。そんなマックのクロック周波数でたった8MBのメモリの中で、どううまく見せていくのか、という戦いだった。ボディと文字盤のPICTを貼り込むとすぐ、「Not enough memory」と表示され、レンダリングが進まない。しかも、その表示がでるのも15分や20分待たされてからだ。その上、リドローだけでも2分や3分待たされてしまう。

 恐ろしいほど遅いのが当たり前だった。だからモデリングをバラバラにし細かくレンダリングして後に合成する。


 しかし、やはりモデリングを合体させると、8MBのマックではレンダリングできなかった。そして、さらに追いうちをかけるように、文字盤を規則的に配列された数字やメモリをそのデビューしたてのPhotoshop1.0のみで正確につくるのは不可能だとわかった。当時はレイヤーさえない。もう気違いてきに丁寧に手で張り込んでいかなければ行けないと地獄で腹をくくった。

 

イラレがフォトショと互換性を持った。

 しかし、ちょうどIllustrator88のデータがPhotoshopの新しいバージョンで読み込み可能になったというニュースを聞いた。当時のMdNの猪俣さんありがとう。この情報をもとにIllustratorで制作した文字盤のグラフィックデータをニューバージョンPhotoshop2.0でコンバートして、ギリギリ解決しそうだ。そんなメチャクチャな時代だった。しかし面白かったし、初めての体験だった。

 また、レンダリング時の「Not enough memory」は、バンド部分とボディ部分と同アングルで別々にレンダリングしたものをPhotoshopで合体することで解決した。

 しかしレンダリングしはじめてコンピュータを回しっぱなしで三日目の朝にフリーズしてマック特有のあの懐かしい爆弾マークが何度も出た。コンピュータに殺されるかもと思った。何度も同じ机で同じ姿勢で朝日を東京タワーで見た。今の時代だったら、もちろん一度でレンダリングできる。

Not enough memory

Produced in 1992

 ブルー惑星に3D-CGのALBAが現れた広告で夏のキャンペーンで使われるそのビジュア ル。天地左右8000pixel程度のものをレンダリングさせPhotoshopで合成し、これは後に ビルボードにもなった。当時の細かなノウハウは初期のMdnという雑誌にも書いている。こ れは広告制作の依頼から納品までが1ヶ月で、ラフプレから完全版下納品したものだ。時計の広告用のメインアングルや精度は広告の一番大切なものであり、いろいろな分野の人が口 をはさみ込むものだ。セイコーの宣伝部の方々もあの当時の狭いオフィースに来られて熱気 が伝わってきた。気持ち恥ずかしい小さな僕の部屋はぎっしりであった。

 早速3DソフトのShadeで背景をつくりはじめてい た。これも8MBのマックでは、モデリング全体を展開することが不可能なので、前影、中 影、後影と分けた。 最初のラフでは、メインスタイリングは右前方、高めのアングルだったが、最終的にはも う少し上側のアングルが採用された。3Dで背景がすでに出来ていたので、3Dのカメラアン グルを変更して時計の方に合わせた。レンダリングにはそれぞれ前影1枚でリスクボードを4 枚いれて3日はかかり、後影、時計のパーツあわせて1週間ちょっとはかかっている。

事故のあと夢を見た。

 夜中や朝方、会社に行き13インチのモニタを覗き込み、Shadeがリスクボードを使用して4つの小さな点を動かしているのを確認することは、恐怖でもあり楽しみでもあった。たまによく3、4日たってからフリーズしていることもあったからだ。その為、仕上がりまでの日時をよく逆算したものだ。 

 ラージピクトの計算時間はその当時、普通の方のレンダリングのボタンを押して、ストップウォッチで計ると計算できたのだ。つまりストップウォッチで60分だったら、ラージピクトは8×8倍の面積なので64倍必要になるわけだ。60分×64=3840分、つまり2.66日間弱という計算になる。これで用意してあるモデリングに次々とレンダリングをかけていく。

 しかし、ある人間が間違えてコンピュータのコンセントを抜いてしまった大事故が起きた。もうこれでダメだと思った。ベランダに行ってタバコを大きく吸った。原稿締め切りはまじかだった。何とか大切な子供を生き返らさなければと頭の中の言葉だけ!その日は帰宅してモーツアルトのレクイエムが頭の中流れていた。疲れ果て寝てしまっていた。

 しかし不思議な夢を見た。なんと逆側からレンダリングしている。。しかもドンピシャのアングルで。夢で見えた。生き返らす方法を! 分かった!コンピュータで出来るかどうか。

 つまりその場合は一度正方向のラージピクトをそのままにして、こんどはモデリングをカメラを90度回転させ、さらにレンダリング・ダイアログボックスの中で90度回転させるとまったく逆から計算できることを発見した!!
これで最後に両者をPhotoshopで合成して一枚にできる。おかげで後に余裕を持ち仕事ができる様になった。クオリティーが良くても納期に間に合わない広告に、全然意味はない。

 途中は省くが、ブルー惑星に3D-CGの時計がついに出来た夏のキャンペーンで使われるそのビジュアル。天地左右8000pixel程度のものをレンダリングさせPhotoshopで合成した。ついに出来た。出来た途端の3分間は嬉しかったが直ぐに版下の作製で大忙し。出来上がった一式を携えて持って行った。ギリギリセーフだった。

 これは後にビルボードにもなった。またある人は少年ジャンプのその広告のページを破りビッグカメラに持参し「これを下さい。」と言い購入したそうだ。これこそが本当に嬉しかった。

 

表現は技術を求め、技術は表現を求めている。

 忘れてはいけないのはその時代が要求しているかもしれない、ベンチャースピリットだと思う。その当時は大型合成用コンピューターは、アンチMacだったのでインポート用のプラグインソフト(違うフォーマットのコンピュータの入力)も開発されておらず、はじめてデータを苦労して移動したような時代であった。 

 なにもかも、ちょっとずつ足りなかったりチグハグだったりする環境ではあったが、夢はいつもあった。いろんな人々からCGの反対意見が出まくっていた。本当の自分達が行くロケに行けなくなるとか様々だった。とにかく僕はバーチャルロケだといつもまわりに言いふらしてまわって、コンピューターの中にロケセットを持ち込み、その中での無重力感や光と影のピュアーなビジュアルを楽しんでいた。どうせオタクだと言われたこともあった。都市伝説と同じ部類なのだ。
 時ははるかに流れはやあの時の世論がアンチコンピュータデザインから現在、コンピュータは無ければならない時代を超えて成長した。この腕時計のCGを創った頃にはコンピュータは危うい物の上で動いているとか人とか言われたりもした。私たちは30年後の今の世界を想像できただろうか。つまりパソコンは昔の蒸気機関車であったなら現在の最新宇宙ステーションと同じである。そのぐらい進化した。すぐそこにメタバースも量子コンピュータもやってくる。

ALBA広告

Produced in 1993

ALBA広告−1
  • client: 服部セイコー

  • project: ALBA雑誌広告

  • cg/design: 柴山信廣

  • ad: 横川 覚

  • cd copy: 佐藤達郎

  • agency: ADK

Produced in 1992

ALBAビルボード広告

​渋谷のビルボード

ALBAビルボード広告

​原宿のビルボード

ALBAビルボード広告1993年
SEIKO-1

Produced in 1993

1992年にMDN 8 /1992

Imageprocessing

 

3Dグラフィックソフトを操る魅力は、何もない暗闇の世界に物体を創造し、それに光を与えるという行為の中にあるのかもしれない。この魅力にとりつかれた柴山信広氏は、広告用の商品を3Dの世界に持ち込んでしまったし、加藤直之氏は沈黙の美女を3Dの世界に誕生させてしまった。彼らの作品からは、制作時のイマジネーションがダイレクトに伝わってくるようだ。さて、緻密さと忍耐強さが要求される制作の裏側を見ていこう。

 

  1. 無菌室での撮影感覚

現実に存在するものを3Dの世界に取り込む

昔から“光と影”がある程度表現されているビジュアルが好きだった私にとって、“光と影を一から創り出すソフト”であるShadeIIは、長年夢見ていたソフトそのものであった、このShadeIIを使った最近の仕事の中から、実在の商品を重力も空気もないコンピュータ世界の中に取り込むことで広告表現として成立させた服部セイコーの時計「ALBA」の雑誌広告を例に取り、3Dグラフィックスの世界を紹介したい。

(柴山信広/アートディレクター)

広告表現のビジュアルには、写真が多く使われる。写真は、「たしかにそこにそのモノが存在していた」という力(存在感)を利用して広告を作る方向である。もちろん未来の出来事や、今頭の中にあるイメージをカメラで撮影することは出来ない。しかし、3DのCGでなら頭の中にある未来や現在進行形のイメージを制作できるのではないかという気がしている。

3Dグラフィックス(を含むCG全般)は、主に架空の物体を架空の世界の中で表現することに使われてきた。しかし、現在の3Dグラフィックスでは、パーソナルコンピュータのレベルであっても“ない”ものを“ある”もののようにリアルに写すことができるような段階になってきている。モックアップが出来上がっている状態なら、これから出来上がってくる商品の画像を作成できる可能性があるのだ。

 

  • デジタルのテクスチャー

ただ、リアルといっても、今の段階のCGには明らかに写真とは違った独特のテクスチャーがある。デジタルのテクスチャー。これが広告の場合、メリットにもなるし、ウィークポイントにもなる。しかし、どこかツルッとしているこのテクスチャーが商品と一致したときには、今までにない効果が生まれるのである。

今回のセイコーの時計では、クライアントの希望として、「一般的な写真表現、映像表現ではなく、仕上がりにエレクトリックなトーンを出したい。バーチャルリアリティ的な味、具体的にはモニター上に見られるトーンを雑誌広告の上で出したい」というものだった。シチュエイションも、「不思議な時間、不思議な空間に商品を浮かべたい」という、写真よりもまさに3Dグラフィックスによる表現を前提とし、3Dグラフィクスの効果を狙ったものであったために、比較的スムーズに意志の疎通が出来た。

 

  • モデリング

ここからは実際の作業を見ていこう。

広告制作の依頼は、撮影商品(最終モックアップ)が出来上がった時点できている。制作に当たっては、図面20枚程度と撮影商品の提供を受けた。

具体的な作成手順としては、まず図面をすべてスキャナで読み込む。ShadeIIのモデリング画面に“Get Template”でこの図面(PICT)を読み込み、トレースしていく。基本的に平面で読み込み、3面図上で画面を切り替えながら厚みを付けていく。形状モデルは見ての通り、ワイヤーフレーム上になる。

図面はほとんど部品ごとにバラバラに描かれている。また、各図面はそれぞれまちまちの縮尺で描かれているが、とりあえず描きやすいサイズで入力してしまい、組み立てるときに拡大・縮小(リサイズ)をした。拡大・縮小にあたっては、縮尺率から換算して数値入力をすることもあるが、撮影商品を見ながら目分量でやっていくことも多い。だんだんと部品を組み合わせていき、それらを新たな1組の部品として登録していく。

当然、表面に見える部分だけをモデリングしていったのだが、部品数は最終的には200点を超えてしまった。

 

  • マッピング

モデリングと同時にマッピングデータも作っていく。マッピングとは、作成した物体に色や模様を与えるための方法だ。3Dではモデルに直接絵を描くのではない。このマッピングには大きく2つの方法がある。ラッピング法と投影法である。ラッピング法は文字どおり物体をその絵で包み込む。投影法ではx軸、y軸、z軸のうちのある方向から用意した絵を写しこむ。ともにレンダリングのときに初めて色がつく。傾きはもちろん、影などもすべて計算して、モデルの表面に絵がつく。マッピングのためのデータは、モデリングデータとは別にPICTで作成しておく必要がある。

ここでマッピングをしたのは、文字盤とリング状の目盛り部分、中に浮く球体、そして背景。文字盤の部分は絵として作成し、投影マッピングしてある。ロゴなどの文字部分は清刷りをもらい、スキャナで取り込んだ後、Illustratorでトレースした。文字盤の目盛りなどもIllustratorで正確に作成した。

 

[Tips]

45度の斜面に刻まれた目盛りと数字は、単純に投影マッピングしてはそれらしく見えない。実際の文字より縦方向に伸びてしまうことになる。そこで、45度の斜面上で美しい天地サイズになるように計算して平体をかけた文字でマッピングデータを用意した。

 

  • 質感

模様などがない均質なモデルには、マッピングは不要だ。モデリングデータそれぞれに質感の設定値と色を設定してレンダリングすれば質感のある物体として描かれる。時計本体やベルトの部分はこの方法で質感、色を出している。質感の設定はSurfaceウィンドウで行う。初期設定では色はすべて白になっているので、必要な部分にだけ色を指定する。金色を表現するにはBaseColorを黒にし、Highlightを70、Sizeを46、Reflectを20、そしてMetalicは82でしぶい黄色に指定した。同じように銀色はBaseColorを黒に、Highlightを56、Sizeを56、Reflectを24、Metalicは88で、これは白のままとしている。

部分的にモデリングが出来上がると、感じをつかむためにスキャンラインモードでレンダリングしてみる。

 

  • 背景

背景の部分はバンプマッピングの手法を用いている。バンプマッピングは自然な凸凹を表すための方法だ。ここでは2枚のPICTデータを用いて作成している。まず、色ムラの絵を描く。それを元にして256階調グレーのデータを作成。そこに黒い線で目盛り上のグラフィックを2つ描く最初の色ムラの絵と、このグレーの絵を使ってバンプマッピングを行うのだが、このときグレーの絵の中の暗い部分が盛り上がるように設定してある。

 

[Tips]

バンプマッピングでも、レンダリングと同じように光源を指定しなくてはならないが、あとでこの背景の上に時計を浮かすことを考えると、時計に当てる高原と方向をそろえておく必要がある。そうしないと不自然な世界になってしまうからだ。

こうして作られた凸凹の背景は、実は凸凹に見えるだけの平面画像だ。これをマッピングデータとして利用する。背景に平面の板を置き、これに凸凹に見える画像を投影することで、立体的な背景ができる。

 

  • レンダリングの準備

部品が揃ったところでレイトレーシングモードでレンダリングするのだが、このとき、System、アプリケーション、モデリングデータ、マッピングデータの合計メモリサイズを8MB以内に抑える必要がある。制作当時試用していたShadeII専用のRISCボードが8MBまでしか扱えなかったからだ。たとえば、モデリングデータとマッピングデータで32MBというデータを作った場合、RISCボードを使用した高速なレンダリングは不可能になってします。広告のようにスピードを要求される仕事では、RISCボードを使用しない処理は時間がかかりすぎて現実的ではないだろう。RISCボードの制限には従わざるをえない。(ちなみに、現在は16MBのRISCボードも誕生している)

最初はマッピングデータをかなり巨大に作成したために、全くソフトが動いてくれなかった。データサイズが大きすぎたのだ。システムフォルダからINITを次々とはずし、漢字Talkもクリップボードすらもない、システムとファインダだけが入ったシステムフォルダにし、マッピングデータをリサイズしていった。さらに、数多い部品をまとめていき(ブラウザの整理)、見えない部分の部品をはずしていって、やっとRISCボード上でレンダリング可能なサイズに直した。

部分的にレンダリングし、いくつかの画像をPhotoshopなどで合成するという方法もあるだろうが、やはり1回のレンダリングで完成させる方法を用いたほうが後の修正、訂正にもフレキシブルに対応できる。

レンダリングには物体の配置、光源の設定、そしてカメラレンズの選定などが必要だ。このあたりはスタジオでの撮影とまったく同じ感覚である。スタジオでの経験が多い人はセットアップがうまいだろう。ソフト上の仮想カメラレンズは9ミリから720ミリまで用意されている。今回は広角のレンズを選定している。

 

  • レンダリング

いよいよレンダリングに入る。レイトレーシングによるレンダリングには、2つのモードが用意されている。実際のピクセル数でレンダリングするモードと、その64分の1のサイズでのレンダリングを行うモードである。実際には5,800×4,696ピクセルで仕上げることにしたのだが、その前に64分の1サイズつまり725×587ピクセルでレンダリングする。これは、もちろん仕上がりの感じをつかむために必ず行うべきことだが、このときにレンダリングにかかった時間をストップウォッチで計測しておくといい。かかった時間の64倍が実サイズでのレンダリングにかかる時間の目安となるからだ。

この時計の場合、MacintoshIIfxに、ShadeII専用ボード“New Super”を4枚フル実装して、4日で仕上がると踏んだのだが、実際には4日半かかってしまった。

レンダリングした画像はPICTデータとなる。これをPhotoshopに読み込み、手作業を加えて完成させる。微妙な形状の変更を行い、雷の光を描き加え、金属部分のテカリの強調をしている。

 

  • 校正出力

出力に用いたのはインクジェット式のIRISプリンタ。ソフトウェアはPhotoshop。用紙はA3サイズだ。だいたい作品はこのサイズでIRIS出力している。プレゼンテーションに使うには、このくらいのサイズがないと迫力がないからだ。

ここでクライアントのチェックが入る。精密機器メーカーなので設計図と首っ引きの細かなチェックが入る。校正紙は赤字で埋まってしまった。外形のカーブの違いなど、形状に対する修正のほか、文字盤の中にあるクロノグラフ部分(3つの小さな円の部分)に出る光彩の強調、カメラアングルの修正などがあった。形状部分に関しては特に要望がきびしく、現在の3Dグラフィックスソフトで表現可能な極限までを要求される。ここまでのモデリングに2週間かかっているが、ここで入った訂正を終えるのにさらに2週間を要してしまった。しかも、単なる2週間ではなく徹夜を含んだ2週間であり、これは正直キツかった。

オペレーションの時間、レンダリングの時間は、パソコンレベルでの3Dグラフィックスを“仕事”として成立させるために大きな問題だろう。

最終原稿にするために、Photoshopでレタッチをして仕上げるのには、さらに3日間を要している。カメラマンなら基本的に商品を提供してもらい、撮影だけの責任を負えばよいが、3D画像を作り上げるためには、針のサイズや何百点ものパーツの形状、質感すべてに責任を持たなくてはならず、なみ大抵の仕事量ではない。

 

  • 出力

最終原稿は4×5のカラーフィルムにして納品した。Macintoshによる4色分版フィルム は、まだまだどこの印刷所でも受け入れられるというものになっていないからだ。

 

  • CG画像の値段とこれからの展開

3D画像を制作するまでで、1ヶ月以上の日数がかかっている。

スタジオで撮影した場合の制作費を考えてみよう。スタイリストのギャラ、オブジェの制作費、スタジオ代などがかかり、カメラマンの撮影料、さらにディレクション料を加えた値段が広告写真の撮影料金になる。CGの場合を撮影と比較するのはつらいが、アートディレクターは、現実的にはクライアントのきめた予算繰りの中でビジュアルをいかに写真にするか、CGにするか、あるいはノンビジュアルにするかを決定していると思う。

現在、CGはまだ比較的高価だと思われているが、一昔前のルーカスフィルムスタジオなどに頼んでたときよりは断然安価になってきている。さらに、今後は3DCGの分業化も進むだろう。例えば大道具・小道具のような役割を担う、モデリングを担当するモデラー、ロケハン効果を作り上げる背景作りのバックグラウンダー、それらをすべて統合して撮影するCGカメラマン、ライトマン、レンダリング担当者、それぞれの専門家が揃う時代になるのではないかと思う。そうなれば、また作業の形態も変わり、新たな質・力を持った画像が現れてくるだろうが、それに対応した制作費もまた算出され直さなくてはないだろう。

いま3次元立体スキャナを使用して形状を取り込むプロジェクトも進行しているのだが、こういった技術もまた新たな制作形態を我々に提示してくるだろう。

 

  • 広告展開

この時計の3DCGは、車内吊り広告、雑誌広告(2P、1P)に使われた。デザイン、版下製作も仕事である。

おかげさまで、クライアントのウケがよかっただけでなく商品の売り上げもいいようで、嬉しく思っている。中高生が雑誌広告を切り抜いて店に持ってきて、この時計を買っていったこともあったようだ。

また、当初の予定にはなかったのだが、この画像はビルボード広告としても使用されている。最終原稿がフィルムのため。これらにもすぐに対応出来ている。3DのCG画像が大きなビルボードを飾るなどとは数年前までは考えてもみなかったことで、しかもそれをMacintoshで制作したということは感慨深いものがある。

現在は、ShadeIIのアニメーション機能を使ってアニメーションの試作をしている。手抜きをせずにモデリングしてあるために、比較的容易にアニメーションを作り上げることが出来る。3Dの世界にどんな可能性が生まれるか、これからもいろいろと試していきたいと思っている。  1992年

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